
人が出入りし続ける場所の条件――大王崎〈じゃまテラス〉と南伊勢〈うみべのいえ〉を訪ねて
1|大王崎・絵かきの町で出会った〈じゃまテラス〉
志摩市大王崎は、「絵かきの町」として知られている。
灯台や海、石垣の坂道、波切の港と魚市場。
この土地の風景を目当てに、これまで多くの画家や写真家がこの町を訪れてきた。
波切の港と魚市場の裏手の高台を結ぶ石段の坂は「産屋坂(おびやざか)」と呼ばれ、
坂道の多い波切の中でも、古いまち並みと石垣が落ち着いた空気を残している。
今回訪れた場所は、カフェやギャラリーといった目的を持ちながら、
関わる人によって場の表情が少しずつ変わっていく場所のように感じられた。
」
大王崎港風景


灯台横のスペース こちらもじゃまテラスが作りました
2|最初に集まった場所 ――〈STOP BY JOE〉
この日、最初に集まったのは〈STOP BY JOE〉というカフェだった。
観光業の低迷によって長期間空き家となっていた真珠店をリノベーションし、
地域の人たちによって再生された場所だ。
RC構造の建物は、杉板型枠によるコンクリートの質感がそのまま活かされ、
仕上げを大きく加えなくても空間として成立している。
ザラザラとした壁の表情は、この場所の用途とも自然に馴染んでいた。
地域では、養殖業の減少に伴って不要になったイカダ用のナル材丸太が、処理しきれない問題として残っている。
STOP BY JOEでは、そのナル材を建築や表現の一部としてアップサイクルし、
空間そのものに取り込む試みが行われている。
工事に関わったのも、この町の人たちが中心だったという。
ファサードや店内に点在する表現、二階から見える港町の日常風景も含めて、
「暮らしそのものが重なった空間」になっていると感じた。
この二階で、じゃまテラスに関わるクロストークや講義が行われた。

CAFE STOP BY JOE
変は変化の始まりだ。漁村・波切にできたカフェSTOP BY JOEと、じゃまテラスがたのしい!
3|草刈りから始まった、じゃまテラスの動き
じゃまテラスの活動は、最初から完成された計画があったわけではない。
まちを整えるために、まず草を刈る。
使われていなかった場所に手を入れ、人が立ち止まれる状態をつくる。
そうした目の前の一手を積み重ねる中で、展示や企画、集まる人の役割が、少しずつ生まれてきた。
何かを大きく変えるより先に、「今できることをやる」という順番が守られてきたことが、
場所全体の空気から伝わってきた。
4|絵が残り、人が関わり続ける町
じゃまテラスには、大王崎で描かれた絵が並ぶギャラリースペースがある。
それは観光向けに整えられた展示というより、
「この町で描かれたものが、この町にある」という、ごく自然なあり方だった。
絵かきの町という背景を活かした企画も行われている。
美術を学ぶ人、教える立場の人が関わり、現在も志摩市と連携した展示が続いている。
“アートをやる町”ではなく、描く人が訪れ、関わりが残る町として、この場所は今も更新され続けている。

ギャラリースペース
5|南伊勢〈うみべのいえ〉:焼き芋から始まった場所
午後に訪れた南伊勢町では、〈うみべのいえ〉の話を聞いた。
うみべのいえも、最初から「地域拠点」を目指して始まったわけではない。
できることから始める。
場所を開けてみる。
人が集まったら、また次を考える。
その積み重ねの中で、移住や仕事、暮らしの相談が交わる場所として、役割が少しずつ増えてきた。

うみべのいえリビング/まちのひとのリビングとして自由に利用できます
6|まち歩きで出た「もったいない」という視点
うみべのいえで行ったまち歩きでは、三つの問いが投げかけられた。
- ・街の中で、もったいないと感じる場所はあるか
- ・人の動きが思い浮かぶ場所はあるか
- ・自分の地域にも似た場所はあるか
空き地や空き家、中途半端な広さの空間。
それらを「空いている」で終わらせず、どう使われうるかを考える視点が共有されていた。
この問いは、自然と津市の風景にも重なった。
例えば、大門のアーケード街に残る空き店舗。
場所はあるのに動きが見えない、という違和感は、同じ問いで整理できる気がした。

7|家のような距離感が残る場所
じゃまテラスも、うみべのいえも、建物などその場に入った瞬間に、どこか懐かしい感覚があった。
古い家をほぼそのまま使っていること、
人と人との距離感、
その両方が重なっているのかもしれない。
グループトークの最中も、足音や声がどこかから聞こえてくる。
帰り際に「また来てね」と声をかけられる。
よく笑い、よく話し、場に人の気配が途切れない。
草刈りや、焼き芋、 まず動くところから始めてきた場所には、続いてきた理由がちゃんとあった。
今回のフィールドワークは、まちが動くときの順番を、現場で見せてもらった時間だった。
8|不動産会社として
不動産の仕事をしていると、
土地や建物は「使われてこそ価値が生まれる」という場面を何度も見てきた。
今回訪れた場所では、建物や土地が先に答えを持っていたのではなく、
人が関わり続けることで、使われ方が更新されていく様子を間近で見ることができた。
農地LINKは、農業をするためだけのプロジェクトではない。
けれど、農地や土地を「誰かのもの」から「関われる場所」へと
つなぎ直す役割は、不動産会社だからこそ担える部分があると感じている。
使われなくなった土地や建物に、もう一度、人の動きが戻るまでの“途中”を支えること。
今回見た現場のように、小さな関わりが積み重なっていく過程に、これからも関わり続けていきたい。



