
丹生と大台を巡って、不動産の仕事を考える ― 地域の中で続いてきた時間
はじめに
今回参加したのは、多気町丹生と大台町を巡るフィールドワーク。
これまで何度か続いてきた取り組みの中で、今回は5回目の開催だった。
午前は丹生、午後は大台町へ。
人の話に触れ、場所を見て、町の中を歩きながら、いくつかの時間を重ねていく一日だった。
丹生では地域資源バンクNIUの西井勢津子さん、
大台町ではAWAプロジェクトの稲葉直也さん。
それぞれの地域を拠点に活動を続けてきた人たちと、現地で時間を過ごす構成だった。
丹生|ふれあいの館から始まった時間
多気町丹生での時間は、ふれあいの館に集まるところから始まった。
参加者が順番に自己紹介をし、普段どんな地域や仕事に関わっているのかを言葉にしていく。
その流れの中で、西井さんが丹生に移り住んだ頃のことに触れた。
最初から事業の形を決めていたわけではなく、まず地域を知ることを優先してきたという。
首都圏と三重を繋ぐ新しい試み「ローカル記事アクション」で感じた、体温のある暮らし in 丹生散策/OTONAMIE
地元の人と一緒に町を歩き、道や水路、家の使われ方について教えてもらう。
そうした時間を月に一度のペースで重ねてきた。
歩きながら聞いたことは、その場でメモを取り、場所と一緒に整理していった。
活動を広げるときも、人数や役割を最初から固定することはしなかった。
その時に必要な人が関わり、無理のない規模を保ちながら続けてきた。
この進め方が、丹生での取り組み全体の土台になっている。

丹生 まちの案内板
丹生|自転車とマップをめぐる動き
丹生では、自転車に関わる取り組みも続いてきた。
この分野では、パートナーである西井匠さんが中心となり、
マウンテンバイクコースの管理や運営に関わりながら、自転車を軸とした活動が広がっている。
その流れの中で、地元のヒノキを使ったバイクラックの開発にも取り組んできた。
丹生での取り組みが、町の外ともつながっていることがうかがえる。
また、多気町内のVISONでは、レンタルモビリティの事業にも関わっている。
滞在や移動の中で自転車やモビリティを使う仕組みをつくり、
丹生で続けてきた考え方を、別の場所で展開している。
この夏、自転車で!五感を刺激する大冒険をしよう!@多気町/OTONAMIE
もう一つ、丹生で繰り返し出てきたのがマップづくり。
中学生と一緒に、日常の中で使っている道や場所を出し合い、一枚のマップにまとめてきた。
通学で通る道、よく立ち寄る場所、落ち着くと感じる場所。
そうした視点を集め、完成したマップはハンカチという形になっている。
使われることを前提に、更新を重ねながら続いている取り組みだ。

丹生/よってけマップ_自転車マップ

丹生宿マップ
丹生|町中散策と立ち寄り先
ふれあいの館での時間のあと、丹生の町中を歩いた。
立梅用水沿いを中心に、町の中に残る歴史と関わりのある場所を巡っていく。
立梅用水は、江戸時代に整備が進められた農業用水で、
現在も一部では農業用水として使われている。
集落の中では防火用水としても役割を担い、
今では地域の歴史や水の仕組みを知る場として親しまれている。

丹生_立梅用水創設者西村彦左衛門公園

西村彦左衛門生家 ふるさと屋
散策の途中で、金川珈琲に立ち寄った。
東京での営業を経て三重県へ移住し、多気町丹生で店を構えた場所だ。
いくつもの候補を見ていく中で、この町を選び、現在の場所で開業することになった。
建物は、かつて呉服屋として使われていた建物を活かして整えられている。
外観や間取りには当時の面影が残り、
古い建物の良さと、今の空気が自然に重なっていた。

金川珈琲

金川珈琲 屋内
首都圏と三重を繋ぐ新しい試み「ローカル記事アクション」で揺さぶられた、所有するという概念って何だ? in 金川珈琲/OTONAMIE
まめや
丹生での行程を終えたあと、大台町へ向かう前に、多気町清和にある「まめや」に立ち寄った。
地元の食材を使った料理が並び、味つけはやさしい。
素材の味がそのまま感じられ、一品ずつ丁寧につくられているのが伝わってくる。
どれも素直においしく、印象に残る昼食だった。

まめや
首都圏と三重を繋ぐ新しい試み「ローカル記事アクション」で知った、継承される農村文化 in まめや/OTONAMIE
大台町|nijiiroギャラリー
午後は大台町へ移動し、最初にnijiiroギャラリーを訪れた。
nijiiroは、家具や道具、オブジェの制作と発表を続けてきた活動の延長として、この場所を開いている。
熊野古道伊勢路沿いにある築年数のある建物を活かし、
手を加えながら、ギャラリーとカフェの空間として整えられてきた。
店内には、オリジナルのプロダクトに加え、古道具や古いうつわが並ぶ。
新しいものと古いものが同じ空間にあり、
暮らしの中で使われることを前提に置いた場になっていた。



大台町|AWAプロジェクト
大台町では、町内全体を対象に空き家の調査を行い、
建物の状態や立地を一軒ずつ確認してきた。
その積み重ねをもとに、空き家バンクへの登録や、
移住を考える人からの相談につなげている。
現地では、売り物件はあっても、すぐに住める賃貸物件が少ないという話も出た。
空き家があるかどうかだけでなく、
「貸せる状態か」「直す人がいるか」「借りたい人がどの段階で止まるのか」。
そうした条件が重なり、今の状況ができている。

AWA らぼ
大台町|旧郵便局舎と「いずれ空き家ツアー」
大台町では、旧郵便局舎の保存と活用についても触れられた。
空き家になっていたこの建物は、AWAプロジェクトと町との協議を重ねながら改修が行われ、
再利用できる形に整えられている。
また、「いずれ空き家ツアー」という取り組みも続いている。
このツアーに掲載されている物件は、売却や活用の方向性が決まっているものが前提になる。
やり取りの中では、
「空き家になることを近所に知られたくないと感じる人もいるのではないか」
という質問も出ていた。
不動産の仕事をしている立場から見ても、売ることが決まっていても、
どの段階で、どの形で外に出すかについて迷いが残るケースは少なくない。
いずれ空き家ツアーは、そうした物件を、いきなり市場に出すのとは違う形で見せる場になっていた。

旧郵便局舎
一日の終わりに
丹生と大台で過ごした一日は、地域で何かを続けていくために、
どんな時間のかけ方が重ねられてきたのかを、実際に見て回る時間だった。
最初から完成した形があったわけではなく、
話を聞き、町を歩き、必要なところに少しずつ手を入れながら、
その都度、次の関わり方を選んできた過程がある。
何度かこのフィールドワークに参加する中で感じるのは、
どの地域でも、地元の人との関係づくりを急いでいないという点だ。
同じ場所に何度も足を運び、時間をかけて関わりを積み重ねてきた様子が、今回も随所に見られた。
不動産の仕事では、
どうしても「いつ売るか」「どう使うか」といった結果や条件から話が始まりがちになる。
一方で、丹生や大台で見てきた取り組みは、その前段階にある時間や関係を大切に積み重ねてきたものだった。
農地LINKの取り組みでも、土地や建物の話を進める前に、
誰がどんな思いでその場所に関わってきたのか、
どんな時間が流れてきたのかを知ることが欠かせない。
今回のフィールドワークは、自分自身の仕事の進め方や、
これからの農地LINKのあり方について、立ち止まって考える機会になった。